のぼり旗に助けられた

私がまだ20代のころの話しです。

その時代は、学生運動などが盛んな時期でもあり、若者にエネルギーが満ちていた時代だと思います。

私も学生をやりながら様々な事に挑戦しようと考えていました。

フォークバンドを組んでみたり、俳優の真似事をしたりと輝かしい将来を信じて疑いませんでした。

しかし、いくら大きな夢をもっていても、そこは若者です。

金銭的な余裕は全くありませんでした。

そんな時に足しげく通っていたのが近所の定食屋であります。

「定食屋」というシンプルなのぼりが店頭にそびえ立っており、決して綺麗だとはいえない店構えですが、私にとってはオアシスの様な場所だったのです。

その定食屋の主人は、私の事を気に入ってくれており、お金に余裕が無い時などは、「出世払いでいいよ」と言ってくれて、無料で食事を取らせてくれることもあったのです。

そんな気質な店主がいる定食屋ですので、客は私と同様の若者が多く、笑顔があふれる暖かい場所だったのです。

そのころ私は、小さな劇団に所属していましたが、ある日大きな事務所から引き抜きがかかったのです。

夢のような話しでしたし、給料も破格だったのですぐに飛びつきました。

いくか若かったとはいえ、中途半端に劇団を投げ出してしまい、義理にかいた行動だったと思います。

それでも、新しい事務所では映画やテレビなどで中々よい役を貰えるようになり、裕福な暮らしができる様になったのです。

そして、気づいた時には、のぼりが印象的なあの定食屋には通わなくなっていたのです。